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研究の背景

設計は,与えられた要求に対して, それを満たす具体的な人工物を実現する過程であり, 工学の本質ともいえる人間の知的活動である. この活動は, 人間の価値観とも関連した複雑な過程であるので, 工学を支える自然科学の枠組の中での系統的な取扱いには制約が多い. このため,設計工学においては経験主義的な側面が強調され, 科学的な視点からの接近は限定されてきた. 設計教育においても, 設計対象である人工物を構成する要素に注目し, その挙動を個別に取扱う要素設計論の立場が主であった.

一方,コンピュータの出現は, 設計作業に対して明らかに大きなインパクトを与えている. たとえば,有限要素法に代表される計算力学解析手法, 画法幾何学や製図手法としてのCAD等は, 工学設計を支援するコンピュータツールとして定着している. この意味で設計におけるコンピュータ援用工学の考え方は 一つの方向付けを示している. また,設計に対するコンピュータ化の試みは, 概念設計に代表される人間の創造的な知的活動としての側面にも向けられ つつある. この流れにおいてコンピュータの役割は, 設計の省力化・自動化のためのツールとしてだけではなく, 設計者がその能力をより発揮するための知的支援であるととらえられている. しかしながら,具体的な概念設計支援の枠組への試みは, まだ緒についたところといえる.

本節では,これまでのコンピュータ援用設計の試みと 概念設計への取組みの動向, 概念設計における設計事例の利用, 概念設計支援におけるコンピュータの役割について概観する.



 

平成12年3月1日